私の幼いころ、家は本所・厩橋にあった。東京も危なくなって家族を故郷へ疎開させ父一人残って大空襲、命からがら逃げのびた。疎開先に住みついてようやく我が家が持てたころ父は薪を削ってB29の模型を作りだした。機体は正確で4発のエンジンにはプロペラまで付けた。寡黙な父の頭には、毎日恐れたB29のスミズミまでもが焼きついていたのを知った。 ある町の郷土博物館でB29の焼けただれたエンジンに出会った。いくさの不気味さがよぎった。緊張の中にB29の模型が浮かんだ。母のこと、家族のこと、私自身のこと。私小説があるのなら私絵画があってもいいのかもそんな想いで絵を描き出した。 父の模型造りは戦争をぬぐいさる儀式だったのか。私の絵造りは何だろう。